講談社の文芸雑誌『メフィスト』から生まれた公募文学新人賞『メフィスト賞』。その第59回に満場一致で受賞した作品が砥上裕將(とがみ ひろまさ)さんのデビュー作ともなる『線は、僕を描く』です。
『メフィスト賞』といえば第一回受賞作の森博嗣さんの『すべてがFになる』をはじめ、ミステリやSFなどのイメージが強く、本作が『メフィスト賞』らしくないといわれるくらいに本格的な文芸作品として本来の「面白ければ何でもあり」のルールにのっとり、全員が面白いと思う傑作として満場一致での受賞・出版となった作品。
小説の向こうに絵が見える! 美しさに涙あふれる読書体験
両親を交通事故で失い、喪失感の中にあった大学生の青山霜介は、アルバイト先の展覧会場で水墨画の巨匠・篠田湖山と出会う。なぜか湖山に気に入られ、その場で内弟子にされてしまう霜介。それに反発した湖山の孫・千瑛は、翌年の「湖山賞」をかけて霜介と勝負すると宣言する。
水墨画とは、筆先から生みだされる「線」の芸術。
描くのは「命」。
はじめての水墨画に戸惑いながらも魅了されていく霜介は、線を描くことで次第に恢復していく。絶賛の声、続々!!!
自分の輪郭を掴む、というのは青春小説の王道たるテーマと言っていい。それを著者は、線が輪郭となり世界を構成する水墨画と見事に重ね合わせてみせた。こんな方法があったのか。
青春小説と芸術小説が最高の形で融合した一冊である。強く推す。
――大矢博子(書評家)水墨画という非言語の芸術分野を題材にした小説で、架空の登場人物が手にした人生とアートの関係性、時空をも越えたコミュニケーションにまつわる真理を、反発心や違和感など一ミリも感じることなく、深い納得を抱いて受け取ることができた。それって、当たり前のことじゃない。一流の作家だけが成し遂げることのできる、奇跡の感触がここにある。
――吉田大助(ライター)引用元: Amazon.co.jp内容紹介より
作者の砥上裕將さん自身が水墨画家ということで、著者の実体験による描写も絶妙。
また、あわせて先週2019年6月19日(水)に発売された週刊少年マガジン29号から漫画版としても新連載が開始されています。
作画はこの剣が月を斬る』の堀内厚徳さんが担当。また、漫画内には著者が実際に書かれた水墨画も見ることが出来ます。
春蘭と菊の作画動画も公式動画としてYouTubeにアップされていて、こちらになります。
『線は、僕を描く』水墨画動画
ちなみに応募時のタイトルは『黒白の花蕾』だったそうですから、出版社のタイトルの付け方はさすがだなぁと思います。
小説の向こうに絵が見えるという話題の本書。空白部分に風が見えたら、あなたもこの小説の虜になること間違いなしです。
本日(2019年6月26日)発売の30号には第2話掲載!!